ニュースレター No.14 (2012年09月15日発行) (1) (2) (3) (4) (5)
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寄稿/森元夫妻の講演を聞いて
一つ家族のように絆を結びましょう

寺島 洋子(元小学校長)

「間違っている」「おかしい」と体いっぱいに私たちに訴える森元美恵子さんの声が今も蘇り、「私にもできることをやり続けて行こう」との気持ちを新たにしています。また、静かに真実を法律や科学的な知見に照らして訴え、さらにIDEAジャパンの活動を紹介する中で、世界的な現状も交えながら分かりやすく語ってくれた森元美代治さん。「これからも多くの方々に伝えてあげてください」と心から願うとともに、ささやかでもそんな活動を応援したいと願っています。

美恵子さんは日本人のお父さんをもつ、セレベス島生まれのインドネシアの方とのこと。前日の交流会で初めてお会いしましたが、お父さんゆずりの日本人のお顔で、たいへん気さくに親しく話され、年齢も近いこともあり、以前からのお友達のように感じました。その森元さんご夫妻の「ハンセン病を生きて」こられたお話は、戦後のどさくさの中ではなく、私と同じ世代を生きてこられたお二人への厳しい差別そのものでした。

これだけ人権が大事に唱えられている今の世の中に、まだまだ根強く、脈々と続く差別の不条理さを痛感しました。外国ではすでにプロミンという薬もでき、強制隔離などとんでもない政策として、日本に対して「らい予防法の廃止」への強い働きかけもあったというのに、ハンセン病への厳しい偏見・差別は、今も日本の社会にそのままつながっているのです。

第一「らい予防法の廃止」がこんなに遅くなってしまったこと、そして法律が廃止されてもなおかつ、ハンセン病に関わる皆さんの人権が復活できないということは、ほんとうにおかしいです。お二人がさらされた心と体の痛み、苦しみの大きさに、「なぜ、こんなことが起こっていたのだろう」と、改めて人の尊厳への侵害を見過ごしてきた自分自身の無知を申し訳なく思いました。そんなことがまかり通ってきた日本の社会自体に大きな憤りを覚えます。

特にお二人のご家族や親せきの方々とのやり取りでは、自分の足元をすくわれるような頼りなさ、悔しさなど、言葉では表現できない深い悲しみを抱かれたことでしょう。森元さんに紹介していただいた、『うまれてはならない子として』(宮里良子著、毎日新聞社刊)の中で、良子さんが語る「心の逃亡者」という言葉にも心が痛みました。ハンセン病の両親を持つがゆえに、「良子」と「条子」の二重の人格として生きることを余儀なくされてきた良子さん。このように今まで語ることができなかった方々が、ようやく少しずつ語ってくださるようになっています。講演会と同時に開催された「八重樫信之写真展『それぞれのカミングアウト』−ハンセン病回復者−」にも多くの心の叫びを感じさせられました。

それほどまで大きな差別と偏見、仕打ちが、私たちの見えないところで続いていたのです。ハンセン病にまつわる多くの過ちが生んだ、大切な家族や故郷との絆さえ断ち切らなければ生きていけなかった方々の取り返しのつかない不幸を、無駄にしてはいけないと思います。

東日本大震災の後、原発問題が日本の社会を揺るがしている今、日本の政府や学識経験者と言われる方々の言葉も、どこか信じ切れない風潮がありますが、「自分に直接関係していない」という見方、感じ方が、人を不幸に陥れ、自身をも危うくしてしまうことに気づき、互いに人と人との絆をさらに強く結ぶ世の中にしていかなければならないと思います。

今回の講演会には、長野と東京の学校の若い先生方もいらっしゃって、大変うれしく思いました。やはり子どもたちにこそ真実を伝えて、二度とこのような過ちを繰り返さないようにしなければなりません。先生方が心を動かされ、子どもたちに伝える言葉は、きっと子どもたちの心に種を蒔き、いつか花開いてくれると信じています。そして森元さんが生の声で訴えられたことは、さらに心に沁みていくものです。だからこそ「今」なのです。回復者の高齢化が進んでしまった今、日本の国家そのものの大きな「過ち」を「今」のうちに、次の世代に伝えていかなければなりません。そんな意味でも教育の力が期待されます。

今回、私は「心を揺さぶる言の葉」を持つ美恵子さん、「静かに、けれど確かに燃える心」を持つ森元さんご夫妻に出会い、日常の生活に埋没しそうな自分にカツを入れられ、新たなエネルギーを頂きました。いつか全生園を訪ねて、またお二人にお会いしたいと思います。そして同じ思いを持つ皆さんと共に、一つ家族のように良い時間を共有して、少しずつでも幸せで住み良い社会をつくっていく「仲間」をつくっていきたいものです。


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