ニュースレター No.9 (2010年12月10日発行) (1) (2) (3) (4) (5)
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ブックレット 『絆~ハンセン病家族の国際連帯』ができるまで

事務局長 村上 絢子

2009年5月、鹿児島県鹿屋市で開催されたハンセン病市民学会の家族分科会では、「ハンセン病家族の国際連帯」をテーマに、韓国、台湾、ハワイ、日本の家族が集まって、家族が抱える問題について報告し合い、将来への問題解決に向けて、参加者とともに話し合いました。社会で孤立し、自ら被害を語ることのない家族が一歩踏み出し、市民学会という公の場で発言したのは意義深いことでした。

韓国からの参加者は、定着村に住む二人の若い女性でした。村の中で家族一緒に暮らせる反面、村全体が世間の偏見・差別にさらされ、屈辱的な仕打ちに耐えてきたと、涙をこらえながら話してくれました。けれど“万が一”世間に知られ、新たな差別を受けることを恐れて、名前と顔は公表したくないということでした。
台湾からは、楽生院の入所者母娘です。院内での出産と育児が禁止されていたにもかかわらず、楽生院で生まれ、隠れて育てられたという娘さんの報告には驚かされました。現在、入所者の減少に伴って施設が取り壊され、新病棟への移転を余儀なくされていますが、移転に反対する入所者は「楽生院は我が故郷だ」と保存を訴えています。楽生院の現在は、数年先の日本の療養所とダブって見えました。

IDEAジャパンは、ハワイのオハナの会(カラウパパ療養所入所者とその家族会)から二人の女性を招待しました。一人は、カラウパパ入所者だった母親との確執を乗りこえて、“普通の親娘”になれた体験談を、もう一人はジャーナリストとして、また支援者としてどのように関わり、カラウパパで誇りをもって生きた人びとの人生を、どのように次代に伝えるかについての活動報告をされました。

日本からは、れんげ草の会(遺族・家族の会)会長の赤塚興一さんが、親をハンセン病隔離政策によって奪われた家族の苦悩と心の傷について発言しました。「小学校時代には、父親が患者であったためにいじめられた。成人してからも父に対する嫌悪感を拭い切れなかった。国賠裁判を通してそういう自らを恥じ、父を語ることで父の無念さを明らかにしたい。家族は未だに癒えない傷を抱えていることを理解して欲しい」と、押さえた口調で話されたので、家族の心情が会場に染み通って行くようでした。

このシンポジウムを通して、家族が受けた被害が4カ国に共通していると同時に、歴史、文化、国柄による違いも浮き彫りにされました。「偏見・差別を解消するために私たちがへこたれず、未来に向かって進むことが大事であると確信できるシンポジウムになった」と、国宗直子弁護士(コーディネーター・司会)が締めくくりました。

このシンポジウムが終わってすぐ、私はこの記録を4カ国語別(日本語、韓国語、中国語、英語)のブックレットとして出版し、世界中の人びとに読んでほしいと考え、家族部会に提案しました。その理由の第一は、日本のハンセン病の歴史の中で、4カ国の家族が一緒にこの問題について話し合ったことがなかったこと、第二は、IDEAの国際集会に行くたびに「日本の出版物はたくさんあるけれど、日本語では読めない。ぜひ英訳して欲しい」と言われ続けていたからです。けれど家族部会としては、出版費用も翻訳費用も全くありません。まず資金不足の壁にぶち当たりました。費用のメドがついてから作業を始めようとしたら、出版は不可能でしょう。そこでまず、これまでに培った人脈を頼りに、翻訳してくれる人を探し始めました。厚かましいことは承知のうえで、「出版費用がないので、翻訳料を払えない場合もあり得ます」という前提条件でお願いしてみました。

すると、「無償でもOK」と、グレゴリー・ヴァンダービルトさん(カリフォルニア大学、社会思想研究者)が英訳を、倪加恩さん(通訳・翻訳家)と岳光さんが中国語訳を、西村麻里さんと韓基南さんご夫妻(通訳・翻訳家)が韓国語訳を引き受けてくださったのです。グレゴリーさんは、インドのハイデラバードでのIDEA国際集会(2008年)で、宇佐美治さん(長島愛生園)の通訳をしていました。倪さんとは、日本語修習生として来日した約20年前に知り合って以来のお付き合いです。西村さん・韓さんご夫妻は子育て真っ最中の若いご夫婦で、韓国の回復者と関係の深い柳川義雄さん(FIWCのOB)の紹介です。

まず基本になる日本語の原稿をメールで送って、3カ国語に翻訳する作業が始まりました。皆さん、誠実に丁寧に翻訳をしてくれていることが伝わってきて、心から感謝しながら、メールのやり取りが続きました。

続いて第三の壁は、シンポジウムでも顔と名前を隠していた韓国の参加者が、果たしてブックレット出版を了承してくれるかどうかでした。もし拒絶されたら、このブックレットはシンポジウムの記録として成り立たなくなります。IDEA韓国と韓国弁護団を通してメールを交換した結果、名前と顔を出さない、定着村の場所を明かさないという条件で了承してくれました。息を詰めるようにして返事を待っていたので、OKと知ったとき、肩の力がスーッと抜けていくようでした。

いよいよ出版社に原稿を渡すという段階で、在日韓国人の実業家がつくった韓哲文化財団が、芸術、スポーツ、音楽、文化交流等々の分野で地道に活動している団体に助成金を授与しているという情報が耳に入ったのです。早速申請したところ、120ほどの申請団体の中から、幸運にも「4カ国語でのハンセン病家族のブックレット」出版の企画を提出したIDEAジャパンが授賞団体の一つに選ばれ、出版費用を全額支給するとの連絡が届きました。「“地獄(?)に仏”“天にも上る“というのは、このことだ!」と実感した瞬間でした。

その他に、ブックレット出版に協力したいという友人たちから過分の寄付をいただきました。お陰さまで、翻訳者の皆さんには、ボランティア料金でしたが翻訳料を支払うことができて、ご尽力に多少は報いることができたと、内心ホッとしました。

今年5月、出来たてのブックレット『絆〜ハンセン病家族の国際連帯』を持って、岡山・香川の両県で開催されたハンセン病市民学会に参加しました。大好評で、持参した部数はほぼ完売でした。また韓国、台湾、ハワイ、アメリカ、フィリピン、インド、ネパール、中国、ガーナ、マレーシア、グアム、ノルウェイなどのIDEA会員に送付し、有効に使っていただいています。さらに海外での国際会議や集会でもブックレットを紹介して、活用していただくなど、4カ国語でブックレットをつくった甲斐があったとしみじみ感じています。

以上が、ブックレット出版についての経過報告です。

IDEA ジャパン会員の皆様も、ぜひ読んで、ハンセン病家族の問題をご理解くださいますようお願いいたします。

『絆~ハンセン病家族の国際連帯』
企画・編集 ハンセン病市民学会家族部会
発行 IDEAジャパン
会員特別割引価格 800円(税+送料込み)
(日本語、韓国語、英語 どれも同じ価格)
中国語は売り切れました

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